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bREADERがIVSに対応、異体字が表示可能に

 iPod touchに入れているiOSの電子書籍アプリ、bREADERを何気なく開くと、ずいぶん様子が変わっています。このリーダーについては3つ前の投稿で、使っているフォントの文字数が少ないせいか、鏡花のEPUBでは文字化けが頻発すると一蹴してしまったのですが、その文字化けが解消しています。特徴的な一の字点の形から、フォントがKinoppyと同じ游明朝体に変わっていることが分ります。そういえばKinoppyのEPUBエンジンにはこのアプリのものが使われているらしいので、バージョンアップでフォント環境がKinoppyと同じになったとしても不思議ではありません。

 そこで、アップデートの情報を確認してみると、案の定、游明朝体へのフォントの変更に加えて、何とこんな驚きの一文が目に飛び込んできました。

ePUBとUnicode テキストファイルで、 サロゲートペアで表現されるU+10000以上のコードポイントを持つユニコード文字と、IVS (Ideographic Variation Sequence) による異字体の表示に対応

 特に後半。ほんまかいな、という感じです。これも3つ前の投稿で、現状のEPUB環境では鏡花の異体字を再現することは無理で、将来的にAdobe-Japan1などの異体字コレクションの利用に期待、というようなことを書いたばかりですが、それが早くも実現したということでしょうか。

 半信半疑でさっそく試してみます。「IVSによる異字体の表示」のIVSというのは、異体字を表示するためのユニコードの規格で、基本の文字の後に「異体字セレクター」という識別コードをくっつけます。たとえば、「近」の二点しんにょうの異体字を指定するには、HTML上で「近󠄁」という具合にすればいいようです。「e0101」というのが異体字の整理番号で、めざす文字の番号は「SVIVS」というソフトを使えば手軽に知ることができます。

 以前作ったお試しEPUBファイル「親子そば三人客」を Sigil でいじって、頭の方の何字かに異体字セレクターを加え、bREADERに読み込んでみます。おお、うまくいきました。近が二点しんにょうになり、灰のがんだれが交差し、鎖のなおがしらが小がしらになり、寒の点々がにすいの形になりました。うれしいので「親子そば」全編に異体字セレクターを加えてしまいます。結果、「又」1字を除いてすべて異体字に変身させることができました。また、アップデート情報に「サロゲートペアのユニコード文字に対応」とあったように、これまでKinoppyでは化けていたので外していた字体も復活させることができました。あっけなく、ほぼ底本の字体を踏襲した鏡花EPUB本ができてしまいました。

 ずっと先のことだと思っていた、EPUBでの異体字の利用がこんなに早く実現してしまうとは。しかし調べてみると、ウィキペディアの異体字セレクタの項にはこんなことも書かれています。

Windows 7は標準のテキスト描画処理が異体字セレクタに対応しており、エクスプローラーでのファイル名表示やメモ帳やサードパーティのテキストエディタでのテキスト表示等で異体字セレクタによる字形切り替えが可能である。但し、使用するフォントが異体字セレクタによる字形切り替えに対応している必要があり、日本語版にプレインストールされた標準的なフォントであるメイリオは非対応であるため、初期設定では異体字セレクタで字形が切り替わらない。

 ユニコードIVSはもう身近に実現されていたのです。そして、フォント環境が多くの場合固定されている電子書籍リーダーでは、さまざまなフォント環境を考慮しなければならないパソコンとは違って、その気になればIVSはすぐに実現できるものだったということがいえそうです。電子書籍リーダーの多くは、専用フォントとして異体字コレクションを内包した最新のものを使っていることが多く、仕組みさえ整えれば豊富な異体字がすぐに表示できるということでしょう。

 といっても、現在IVSが使えるリーダーはbREADERただ一つ。試しに、Kinoppyに読み込ませてみると、異体字セレクターの部分が化けてしまいます。ソニーReaderでは文字化けはなく、異体字セレクターは無視されてこれまで通りの基本字で表示されています。今までは主に青空文庫や自炊本のリーダーとして知られていたこのアプリは、IVS対応によって一気にEPUBリーダーの最先端に躍り出たといえそうです。

 bREADERにはこの他にも豊富な機能があり、文字サイズはもちろん、行間を調整できたり、まだ試していませんがiTunes経由で好きなフォントを入れて表示することも可能なようです。扉画像の断ち切りだってできています。動作もクラウドと頻繁にやり取りするKinoppyに比べてスムーズで、Kinoppyに代わってiOSの標準リーダーにしてもいいかと思いますが、残念なことにiPadの画面サイズには対応していません。いかんせんスマートフォンの小さな画面ではメインの読書ツールにはなりえません。電子ペーパーの専用端末にbREADERの異体字機能が載れば素晴らしいと思うのですが、ソニーは次の新型でようやくEPUB3に本格対応ということになりそうだし、koboはこれからだし、まだまだそこまで手が回らないのが実情でしょう。せめてbREADERにiPad版があって、噂のiPad miniに乗せることができれば、機能・サイズともに(液晶はつらいですが)ベストな読書デバイスになりそうな気がします。

→追記 気がつくとbREADERの行頭の起し括弧の扱いがバラバラになっています。天付きの半角取りがあるかと思えば、天付きの全角取り、個人的には望ましい2分あきの全角取りもあります。それが同じページ内にもまざって出てきます。同じエンジンを使っているというKinoppyは2分あきの全角取りで固定されているのに、どうしたことでしょう。バージョンは最新の1.4.1で、最近アップデートがあったはずですが、この現象はアップデート後のことか、以前からあったのかは不注意にして不明です。どっちにしてもこのままではまずいでしょう。(2012.8.7)
→9月5日のアップデートで修正されました。

 親子そば三人客(異体字セレクター使用版)

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楽天koboの文字組み

 楽天koboの画面画像リンク。
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/096/96039/
http://internet.watch.impress.co.jp/img/iw/docs/544/311/html/298.jpg.html
http://internet.watch.impress.co.jp/img/iw/docs/544/311/html/300.jpg.html

 昨日発表された楽天koboは、ビューワエンジンにACCESS社の「NetFront BookReader v1.0 EPUB Edition」というのを使っているようですね。ネットに出ている画面写真で文字組みをちょっとチェックしてみました。

文中句読点→全角取り 〇
改行行頭鍵括弧→全角取り(半角下がり) 〇
連続約物(句点+受け鍵括弧)→全角取り+全角取り △
3字ルビ→字間拡大なし・微妙に文字かけ? 〇
4字ルビ→字間拡大あり・微妙に文字かけ? 〇

 ルビの見立てが微妙ですが、写真で見た限りではなかなかいい感じです。連続約物が全角そのままなのがちょっと残念。あとは、しっかり禁則処理をやってくれるかどうか。

 ネット情報ではハード的には海外版と変わってないそうで、だとしたらCPUも同じでしょうから、動作はソニーReaderに比べるとちょっと緩慢な感じになりそう。特に内蔵ブラウザにはイライラさせられることになりそうですが、海外の掲示板などを見ると、DropboxからのEPUBファイルのダウンロードは可能なようですから、まあEPUB制作の際の表示確認も、ReaderやKinoppyと遜色なくできるのではないかと思いいます。

 それとモリサワのフォント(リュウミンKL?)が端正でいいですね。フォント設定もサイズだけでなく、行間やマージンも調整できる上、海外版のkoboは好きな日本語フォントを入れて使うことができましたから、文字表示に関してはダントツ多機能なリーダーということになります。

 ようやくEPUB3が大きく動き出しそうな予感。

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ソニーReaderのEPUB3は本物?

 こ、これは…

 恥ずかしながら先日アップした「鏡花短編選 深山編」のEPUBに、大きな問題があることに今頃になって気づいて、ファイルを引っ込めました。「銀短册」という長めの短編というか短めの中編の、20章のうち19章辺りで、プツリと表示がとぎれてしまっているのです。ソニーReaderの方の現象で、iOSのKinoppyでは問題なく最後まで表示されています。

 テキストや指定に何か問題があるのだろうと思ったのですが、仔細に見ても問題らしき点は見つかりません。となると、ソニーReaderの問題ということになるのでしょうか。確かに「銀短册」は3つの短編集中、一番長い作品で、なおかつ総ルビのルビタグだらけのファイルですから、その負担にReaderが音を上げたとも考えられますが、それにしてもこの程度で…。

 そういえば「世話編」の「假宅話」でも、途中の特別に長い段落のせいか、ページ送りが極端に遅延するという現象が見られました。バグと覚しい動作も見られますし、ソニーReaderのEPUB3対応には何かと問題があるようです。どうしたことでしょう。

 にわかにReaderの能力への疑惑が生じて色々ググってみると、何とこんなブログに出くわしました。個人の方のブログですが、3月末のReaderのアップデート直後にソニーに確認して「コミックなど固定レイアウト型の EPUB3について動作確認しているが、縦書きの本などに対しては保証できない」というコメントを得たというのです。

 そんなあ~、という感じです。そういえばアップデートの際のソニーのアナウンスは「EPUB3固定レイアウトへ対応」でした。けれど、試してみて文章物もちゃんと縦書き・ルビ打ち表示をしたので、ついに待っていたEPUB3環境が手に入ったのだと興奮したのですが、ソニーはもともとリフローには腰が引けていたようです。不自由な既存のフォーマットに代わって、誰でも自由に利用できるオープンなフォーマットをしっかりサポートして、新しい電書ムーブメントを主導していこう、なんて気はちっともなかったのです。

 だから、Readerは少し重いデータにはすぐに音を上げてしまう。いやはや、弱りました。「今最も実用的と思われる二つのEPUB3読書システム」の一方の実用性に疑問符がついてしまいました。もう一方のKinoppyも最近よく落ちますしね。これから江戸物のテキストなどもEPUBに放り込んでしまおうと意気込んでいるのに、作ってもそれが読書端末でちゃんと表示できるかどうか保証がないというのは、著しくモチベーションを損ねる状況です。

 こうなればソニーさんがリフローEPUB3に本腰を入れてくれるのを待つのみ? しかし時代は動いています。もうすぐ楽天kobo発売。koboは必ずEPUB3を積んできますから、頼りないReaderに代わって確かな受け皿になってくれるかもしれません。koboに刺激されてソニーのEPUB3対応が進む可能性も。Kindleの動きもここにきて急加速し、この夏はようやく熱くなってきた専用端末のニュースを注視しながら、EPUB遊びを続けていくことになりそうです。

追記)ソニーReaderのマイナーアップデートが7月3日にあって、ファームウェアのバージョンが2.0.02.06220になりました。で、これを当てると、上記「銀短册」のしり切れとんぼ現象は解消しましたが、今度は20章の最後の方で、なぜか段落間に数行の空きが出現するという現象が私のPRS-T1では見られています。また、「世話編」の「假宅話」でページ送りが極端に遅延するという現象もそのままです。まあ、しり切れとんぼという最悪の状態は脱しましたので、「深山編」のEPUBファイルは再アップしましたが、なんだかなあという感じです。ソニーさんはハリポタの電子化権を手に入れて、8月には出すそうですが、フォーマットは何で出すんですかね。EPUB3なら端末がこのままで大丈夫?

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鏡花 vs EPUB3 感想

 ソニーReaderのEPUB3対応が発表された3月末から約3カ月、鏡花作品のEPUB化という目標を個人的に設定して、試行錯誤を楽しんできました。そして数回にわたってその報告をしてきたわけですが、ここではその要点をまとめておきます。旧字旧かな総ルビの鏡花本を試金石にした、EPUB3とその読書システム(具体的にはソニーReaderとiOS版Kinoppy)の評価、といえば大層ですが、まあ感想を書き連ねてみます。

●旧字
 電子本でも作者が好んだ文字の姿そのままで鏡花を読みたい、という私のような偏狭な読者兼入力者にとって、EPUB が鏡花本の膨大な旧字にどこまで対応できるかは最大の関心事であり不安点だったわけですが、残念ながらというか、事前に予想できた通りというか、その願いは十分には適えられませんでした。

 EPUB は文字コードとしてユニコードを採用していますが、ユニコードに収録された文字がどこまで使えるかは、結局、読書システムが拠っているフォント次第ということになります。また、漢字には同じ働きをする漢字でも形が異なる異体字というものが数多く存在しますが、それを区別して独自に番号を振るということは、ユニコードでは行なわないことになっているようです。特に後者の異体字は鏡花本に頻出しますから、鏡花が使った異体字のEPUBでの完全な再現はあきらめなければなりませんでした。その場合は、新字や略字などの基本の字に置き換えて表示するしかありません。文字画像で表示するという方法ももちろんあり得ますが、鏡花の場合、その膨大さを考えるととても実用的とは言えません。文字画像を使用するのは、異体字どころか基本字も存在しない外字のみということに留めるのが、現実的な対応だと思います。

 ただし、どういうわけか異体字でも独自のユニコード番号を振られたものがあり、それは使うことができます。たとえば、拔・樣・顏などのような、かなりの異体字を生かすことができます。つまり、3つの鏡花本は異体字のままのものと異体字をあきらめて基本字にしたものとのチャンポンになっているわけで、漢字の扱いとしては統一した基準を持たない場当たり的な状態と言わなければならないでしょうね。まあこれは、偏狭な愛好者が個人的な嗜好を優先して作った電子本ということでお許し頂きたいと思うのですが、もし世に知られた出版社がEPUB本として鏡花を扱う場合は、岩波の「新編泉鏡花集」のように総ルビ・旧かなでありながら漢字は新字を使うという、これまた不思議な姿で出す他ないのが現状ではないかと思います。EPUB には鏡花はまだ荷が重いようです。

 けど、先に希望がないわけではありません。DTPの世界にはAdobe社が作ったAdobe-Japan1という、異体字の字形それぞれに番号を割り当てた文字コレクションがあり、それを含んだフォントもあって、DTPではこれらを使うことで鏡花の異体字もほとんどが再現できます。EPUBと一緒にアップしているPDF版はこのAdobe-Japan1を利用したもので、表示できなかった異体字はわずかしかありませんでした。もし将来、このAdobe-Japan1のコレクションをEPUBで利用できるようになれば、その時初めて、鏡花本の豊麗な紙面をEPUBにそっくり移植できるということなるのではないかと思います。

 ところで、初めに「ユニコードに収録された文字がどこまで使えるかは、結局、読書システムが拠っているフォント次第」と書きましたが、その点では、今最も実用的と思われる二つのEPUB3読書システム、ソニーReaderと iOS版Kinoppy には十分に強力なフォントが積まれているようです。たとえば、iOSにはKinoppyの他にもbREADERというEPUB3に対応した読書アプリがあって、これで見ると鏡花EPUBはけっこう文字化けを起こします。積んでいるフォントの収容文字数の違いでしょう。もしbREADERを読書環境の基準と考えた場合は、鏡花EPUBの文字はさらに制約を受けることになってしまいます。

 だから、本来、全EPUBリーダーのフォント環境は同一レベルであることが望ましいのですが、そうなっていないのが現状のようです。またソニーReaderと Kinoppy にしても、片方で表示できても片方はだめという字がわずかながらありました。たとえば、u2f8b2の成の異体字。この字は独自のユニコード番号をもち、EPUB でも表示できるはずです。ところが、Reader内蔵の筑紫明朝では表示できるのに、Kinoppy の各フォントでは文字化けします。どうしてなのか、その辺の仕組みは私には分りませんが、鏡花EPUBは異体字を一つ損しました。

 EPUB の旧字対応に関する感想はこんなところですが、ここまで旧字にこだわる必要があるのはごく特殊なケースで、多くの場合、ユニコードが使えるEPUB の文字環境は必要十分だという一般的な評価も、また事実だと思います。たとえば明治・大正の文学でも積極的に新字に書き替え、場合によっては仮名遣いも直した方が、現代の読者には読みやすいだけでなく、理解も深まるという場合も多いのです。御大漱石の小説にしたって、新字新仮名で読んでその面白さに何の不足も生じないし、その本質的な意義も十全に伝わるのではないでしょうか。ただし、鏡花の小説やたとえば日夏耿之介の随筆や近代の詩歌の全部については、それをしたら失うものが少なくありません。考えてみると、それを平気でやってきたのが戦後の出版だったわけですが、電子書籍にはその轍を踏んでほしくありません。EPUB出版の自由さが原典の再生と尊重につながり、EPUB読書の自由さが忘れられかけている文学の再発見と日本文の再生につながればと思います。

●ルビ
 総ルビの文章をEPUB化するなど、考えたらぞっとする作業ですが、それをやってしまうのが愛好者というものです。いえ、私のことではなく、[鏡の花]というサイトがあって、春陽堂版全集を底本に精力的に総ルビ・旧字の鏡花をPDFでアップしていっておられます。これに比べたら短編選3編の総ルビなど大したことはありませんが、それでも入力には素の文章のまあ1.5倍の手間はかかりました。ただ、今回は入力にinDesignを使いましたので、テキストにルビタグを書き込むよりは少し省力化できたかもしれません。

 もっとも、EPUBでのルビタグの振る舞いを事前に調べておかなかったせいで、後でグループルビをモノルビに全面変更するという二度手間に陥ったしまったのは、inDesignに頼りすぎてしまったせいかもしれません。inDesignからのEPUB書き出しは、確かに便利な部分もありますが、その後の手修正の手間も少なからず発生します。inDesignは気づかないような小さな指定のブレも、律義に拾ってEPUBに書き込んでしまいますので、それを取り除くのがちょっと面倒だったりします。たとえば、本文やルビのフォント指定が一部別のものになっていたりすると、それだけでHTMLとCSSに立派なクラス指定が出現したりします。また、inDesignはルビタグに未対応ブラウザのための rpタグを入れてしまいます。 ルビ対応が義務化されたEPUB3ではこれは不要で、ただでさえルビタグのせいで肥大化しているHTMLには負担ですので、これも全部除去しなければなりませんでした。ルビが少ないテキストの場合は、TEXTファイルを直接Sigilに読み込んだ方が手間がかからないかもしれません。

 で、EPUBでのルビタグの振る舞いですが、複数の漢字に一度にルビを振るグループルビを使うと、そのルビの途中での改行はできなくなります。そのため熟語がそっくり次行に送られてしまって、行末が揃わなくなります。これを避けるには、グループルビを使わず漢字一字ごとにルビを振るモノルビに変えるしかなかったという次第です。また、inDesignでスペース区切りのモノルビを熟語に当てている場合も、EPUBではグループルビになり、しかもスペースがルビに残ってしまいますので、これもモノルビにせっせと変更しました。モノルビのみの指定は手間が多く、またタグが増えてHTMLが膨らんでしまいます。今後は、ネット上で言われているように、グループルビと同様にまとめて指定できて、しかも途中改行を許す「熟語ルビ」のEPUBへの追加を待ちたいところです。

 次に読書システム側でのルビへの対応について。最初、ルビが指定通りに振られて表示された時は感激したものですが、じっくり見ていくと気になる点も見えてきます。まず、ソニーReaderのルビは中付きで、1文字に3字以上のルビだと、親文字の前後の字間を広げる設定になっているようです。このため総ルビの場合、字間の広がった個所が頻繁に出てきて、文字の連なりが少しぎくしゃくした印象になります。一方、Kinoppyのルビは肩付きで、Readerのように字間を広げる処理はまったくせず、そのまま下へルビを垂らして、他の文字にかかるままになっています。極端な場合は右のようなことになります。Readerの方がルビの扱いとしては丁寧なのでしょうが、字間を広げるのと、他の文字にルビをかける「文字かけ」処理を併用して、できるだけ字送りを維持してもらえたらと思います。そもそも、読書システムによってルビ処理がマチマチなのが気になります。上に触れた文字環境の不統一といい、読書システム間の処理の統一が望まれます。

●旧かな
 かな文字については何の文句もありませんが、繰り返し記号のくの字点もかなに入れるなら、両読書システムで改行での泣き別れが発生するのが困りものです。禁則処理に含まれていないのでしょうか。「white-space: nowrap;」で改行禁止にしてみると、Kinoppyでは効果がありましたが、Readerでは効かないようです。また、句読点の禁則違反も両方でまま見られます。この辺りは今後のチューニングに期待するしかありません。

●体裁・レイアウト
 EPUBのレイアウト能力については、総扉などは画像貼り込みですし、中面も単純なことしかやっていないので、突っ込んだ評価はできません。これまでの投稿で苦労した点として報告したのは、扉ページの縦1行のタイトルを左右中央に配置する方法がなく、横組みにして中央で一字づつ改行という奇策を使ったというのと、突き出しインデントになった引用文で、ソニーReaderの半角起し括弧を処理するのに困り、これも白文字を使うという禁手を使ったこと。これらはEPUB規格の今後の拡張とリーダーの改訂を待つしかなさそうです。今回は使わなかったけれど、今後お世話になるかもしれないレイアウト機能としては、ページ内への写真や挿絵の配置、注、段組などがあげられますが、EPUB雑誌などもっと複雑なレイアウト物をめざすのでなければ、基礎的なレベルのCSSで何とかやっていけるのではないかと考えています。

 読書システムの側のレイアウト機能として気になったのは、マージンへの対応が両機で違っていたこと。ソニーReaderはCSSでのページの余白指定に反応しますが、Kinoppyは独自の余白を保持したままです。そしてReaderの方も、マージンをゼロにしても周囲にわずかに余白が残ります。実は総扉の画像を絶ち切りのように画面一杯に表示したかったのですが、これはあきらめました。

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ソニーReaderの行頭半角括弧に泣く

  三つめの鏡花短編選、「深山編」をアップしましたが、今回もEPUB版で難題が一つ。最後の「雪靈續記」の唄の引用部分。底本では「雪やこんこ、霰やこんこ。」の唄の2行などが、全体を大きく下げた上で、先頭の鍵括弧だけ1字上げて、というか2行目の頭を1字下げて、雪と霰の並びを揃えています。まあ普通こう組むでしょうね。下は iOSのKinoppyの表示で、2行目の頭を1角下げることで底本通りに揃えることができます。けど問題はソニーReader。

 ソニーReaderのepub3は以前に触れたように、起こし鍵括弧が半角に固定されています。そのため2行目を1角下げると1行目より半角多く下がることになってしまうのです。こんな具合。

 かといって、Readerに合わせて下げを半角にすると、今度はKinoppyで揃いません。このままで仕方がないかとも思いましたが、あまり体裁がよくないので一応色々試してみます。例によって泥縄式に検索でそれらしいタグを見つけて片っ端から試します。pre、tt、monospace、white-space…、いづれも効果なく、ソニーReaderの半角鍵括弧は動きそうにありません。Readerで揃ったらKinoppyでズレ、Kinoppyで揃ったらという具合。お手上げであきらめかけた時、起死回生のアイデアが閃きました。

 2行目の頭にも鍵括弧をつけてしまうのです。そうすれば、それが半角であろうが全角であろうが、字は揃います。そして2行目の鍵括弧を見えなくしてしまえばいいのです。CSSで鍵括弧の色を白にするとうまく消えました。バックに色を敷けるビュワーではばれてしまうトリックですが、白バックのみのReaderとKinoppyには有効です。ただし、テキストデータとしてはこの鍵括弧は確かに存在し、しかもあってはならないものですから、これはあくまで、特定のリーディングシステムでの視覚的表象のみに特化した制作事例で、EPUBをインターネットに流通する書籍データの一つとして考えた場合は、明らかに禁じ手ということになるのではないかと思います。タイトルページの擬似中央縦書きといい、こんなことばかりやっていますが、EPUBでの見場と実データとのバランスはよく考えるべき問題だと感じます。

 それにしても、ソニーReaderの起こし鍵括弧の半角固定はやはり少々迷惑ですね。もちろん、組版の方針として行頭括弧の天付きはあり得ますが、先行のドットブックやXMDFは全角で行っているようですし、印刷本でも最近は改行行頭は全角が主流で、半角はあっても非改行の行頭のみというのが多いように思います。特に、会話文が独立した段落になることの多い小説では、鍵括弧に続く文字が、地の文の改行冒頭と揃った方が自然に感じられ、その点でもReaderの改行行頭半角鍵括弧固定は無理があると思います。

 さて、こんなことで一喜一憂しながら好きな作品のEPUB化を楽しんでいる次第ですが、鏡花短編選のシリーズはこれで打ち止めで、後は親サイトの書庫に長く置いている古典テキストや、でき得れば返り点などを使った漢詩文のEPUB化にも手をつけてみたいと考えています。また翻刻ものだけでなく、オリジナルな作物もいずれ出してみたいという下心も抱いています。

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ソニーReaderのEPUB3を試す

 ついに来たソニーReaderのEPUB3対応ですが、ニュースには「固定レイアウト型のEPUB電子書籍に対応」などと書かれていて、限定的な対応のようなニュアンスも。リフロー型の電子書籍はサポートされていないのでしょうか。期待とともに不安を感じつつ、さっそく愛用のPRS-T1とPRS-350をアップデートして、その真偽を確かめてみました。

 実は先日来、ソニーReaderのEPUB3対応が遅いのにしびれを切らして、最近評判のいい紀伊国屋書店の iOS・アンドロイド向け電子書籍アプリ「Kinoppy」を相手に、EPUB3ファイルを試作していた所でした。そこに今回の発表です。渡りに舟と、試作した鏡花の「親子そば三人客」のEPUB3ファイルをReaderに読ませてみました。結果はこんな具合。


 上がPRS-T1、下がPRS-350。両方ともちゃんと縦書き・ルビ打ち表示をしています。立派なもんです。これでついにグローバルでオープンなフォーマットに対応した端末を私たちは手に入れました。フリーテキスト、オリジナルな創作、なんだってこれからはこの共通のフォーマットで自由に、そして質高く版行できます。それを、専用端末ではソニーReader、iOSとアンドロイドではKinoppyがしっかり表示してくれます。続く端末・アプリも続々現れるでしょう。そうならないと日本の電子書籍はおもしろくなりません。

 ただし、最初のバージョンですので、もちろん気になることもあります。ご覧のように旧型のPRS-350はゴシック書体で表示されています。XMDFや.bookでは明朝体(たぶんイワタ明朝系)で表示されるのに、EPUBでは読書に適さない書体になってしまいます(そして、このフォントのせいか、一部文字化けも)。一方、PRS-T1では他のフォーマットと同じ筑紫明朝(たぶん)で表示され、文句はありません。

 PRS-350のフォント表示をなんとかできないか、ということで思いついたのは、以前 EPUB2を試した時に有効なのを確認したフォントの埋め込み。inDesignからフォントの埋め込みにチェックを入れて、もう一度 EPUBを書き出し、これを両機に読ませてみました。それがこれ。


 埋め込んだヒラギノ明朝で表示されました。PRS-T1の方もヒラギノになって、個人的にはこっちの書体の方が好みですので、大満足です。ただフォントを組み込んだことによって、ファイルサイズは300KB程度から1メガ程度に膨らんでいます。

 もう一つ気になったのは文字組みの問題。ソニーReaderのEPUB3は、句読点を文中は全角、行末は全角または半角とかなり柔軟に扱っています。また、句読点+受け括弧は半角+全角、または半角+半角になっていて、たとえば約物はすべて全角で押し通している同じReader上のXMDFや.bookの文字組みにくらべて、ワンランク上という感じがします。ただ、気になったのが行頭の鍵括弧。なぜかこれだけはすべて半角取りの天付きなのです。行頭の、特に改行行頭の鍵括弧は1角取りが普通だと思うのですが、なぜこんな風にしたのでしょうか。特に小説では会話が多いので、不自然に半角上った会話の頭が気になります。

 それにしても、ソニーReaderのEPUB3は期待以上の出来だと思います。先日来、復興支援の名目で大きな補助金を受けることになった出版デジタル機構が話題に上っていますが、その「電子書籍フォーマットポリシー」なるものを見ると、EPUB3の「普及は時間の問題」としながらも「一般ユーザーが安心して使用できるビュアーが出現するまで、もうしばらくかかると予想される」として、EPUB3を統一フォーマットに据えることには及び腰な印象です。しかし、ここに来て、スマートデバイスにはKinoppy、専用端末にはソニーReaderという強力なEPUB3デバイスが登場したのですから、そろそろ肚を決めてEPUB3を中心とした電子化を押し進める時なのではないでしょうか。そして、私などもマイナーでニッチな書物にこだわる人間として、このオープンなフォーマットをどんどん活用していきたいと思っています。

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ソニーReaderのEPUB2を試す

 首を長くして待っているソニーReaderのEPUB3対応ですが、一向に音沙汰なし。もちろんパソコン上で使えるリーダーソフトは既に幾つか出ていますが、いま一つ触ってみる意欲がわきません。もとよりパソコンなんかで読書ができるはずもなく、ベンダーによって実装具合も違うようだし、どうせEPUBで苦労するなら、パソコンソフトなんかじゃなく、読書端末を相手にしたい。

 そんな次第で、とりあえず新しいソニーReader、PRS-T1が実装しているEPUB2.0の具合を試してみることにしました。組版の具合などあまり突っ込んだことを試しても、3.0ではどう変わるか分らないし、またそんな知識もないので、フォントの反映具合と、鏡花電子本ではポイントになる旧字の表示について確かめてみることにします。ネットではソニーReaderのEPUBはゴシックしか表示しないとか、いやCSSで設定すれば大丈夫とか、いやいや新しいリーダーではフォント指定が効かなくなったとか、いろんな話が交錯していますが、ほんとの所はどうなんでしょう。

 素材に使ったデータは、上のような一連の漢字。鏡花本を校正する時に使った新字→旧字のチェックリストです。鏡花本の入力で一番苦労するのはルビと旧字ですが、アドビのinDesignを使うとどちらもずいぶん楽になります。それでも、おとなしい書体が気に入ってHG明朝という古いフォントを使ってしまったこともあって、後から後から見落とした旧字が見つかり、検索で捜しては字形パレットで旧字あるいは異体字に置き換えるという作業を繰り返すことになりました(今もやっています)。これはそのチェックリストの一部を切り出してPDFで出力したものです。

 これをinDesignでEPUBに書き出してソニーReaderに読ませてみたのが次の画像。明朝あり、ゴシックあり、?ありで、変なことになっています。しかし、よく見ると矢印の左側の漢字はみんなちゃんと表示されています。しかもデータ通りの明朝体です。実はこの左側にはHG明朝を使っています。inDesignはEPUBを書き出す際、フォントの埋め込みとCSSでのフォント指定を行なってくれます。この部分はそれがきちんと反映されているようです。

 ところが右側はうわさのゴシック化けです。しかも読めてない部分も。左側と何が違うのか。ここには小塚明朝Pr6Nというのを使っています。ユニコードはもちろん、異体字にも対応しているという強力なフォントです。だからこそ、inDesign上では鏡花の漢字もほぼ完全にカバーできます。つまり、公開している鏡花PDFはHG明朝を中心に部分的に小塚明朝の交じった、フォントのチャンポン状態なのです。全部小塚にすればいいのですが、小塚の平仮名がちょっと気に入らない次第です。

 それはともかく、右と左と何が違うのか。HG明朝はTTF(トゥルータイプフォント)ですが、小塚はOTF(オープンタイプフォント)、とりあえずそれぐらいしか思いつかないので、試しにFontForgeというフリーソフトを使って小塚をTTFに変換してみました。そしてinDesignで小塚TTFを適用し直しEPUBに書き出したのが下の画像。どういうわけだか分りませんが、うまく明朝になりました。ソニーReaderのEPUB2.0は、フォントの埋め込みとCSSの設定で任意のフォントを表示することができる、ただしフォントによってはうまく行かない場合もあるというのを、とりあえず一つめの結果としておきます。

 次に旧字の表示の具合を見てみます。私の大雑把な理解では、EPUBにおける旧字というのは2種類あります。EPUBは文字コードとしてユニコードを採用していますが、そのユニコードの独自番号を持った旧字と持たない旧字です。独自番号を持った旧字は、当然ユニコードに対応したフォントを使えば問題なく表示できます。上の例でいえば、内・清・炭・強の旧字体で、ソニーReaderでも表示できています。一方、独自番号を持たない旧字、いわゆる異体字はそのままでは表示できないので、異体字セレクタという追加番号のようなものを付加して基本となる字と区別するようです。この異体字セレクタに対応したフォントはまだ少ないのですが、ここで使っている小塚明朝はその一つです。

 だからinDesignでは一番上のPDFのように思い通りに旧字を出力することができます。しかし、それをEPUB化してソニーReaderで読むと、一番下の姿・習・急・朝のような結果になり、旧字体は反映されていません。どこに問題があるのか、改善する方法があるのかは、今のところ私にはさっぱり分かりませんが、それよりも次のEPUB3.0へのアップデート後が気にかかります。ソニーリーダーで、というか、読書端末で異体字が選べないとすると、古典作品の本格的な器としての可能性は狭くなってしまいます。

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Kobo eReader使用記

 にわかに注目を集めた楽天のKobo買収は、内向きで日和見体質の日本の電子書籍界にようやく現われた、自立的な戦略と大きな野望を感じさせる動きでしたね。Koboという会社は2009年にカナダの大手書店を親会社として設立された若い会社らしいのですが、わずか2年ほどの間に、3種類の電子ペーパー端末と1種類の液晶端末を発売し、欧米やアジアに端末と書籍の販売網を展開してきた急成長株だったようです。ただまあ、決算を見ると2年連続の赤字ですから、盛大な種蒔きについに息切れがして、より強力なスポンサーが必要になったということかもしれません。この後、蒔いた種に見合った収穫は得られるのか、さらにはアマゾンの塁を摩する世界的EC企業にまで成長できるのかは、三木谷さんの手腕次第ということでしょうね。

 さてそんな折、タイミングよくというべきか、悪くというべきか(来年前半にも日本語仕様のKobo eReaderが発売されるのは確実でしょうから)、Kobo eReader Touch Editionを入手してしまいました。たまたま娘が晩香坡へ遊びに行くというので、買ってきてもらった次第ですが、市内では本屋はもちろん、スーパーや電気店やドラッグチェーンにまで置かれていたそうで、値段も130ドル前後とリーズナブルで、カナダでは読書端末がたいへん身近な存在になっていることがうかがえます。ご覧のようにアクセサリー類もなかなか豊富なようで、高くてイマイチな純正カバーしか選択肢がないソニーReaderにひきかえ、羨ましい限りです。

 で、入手したKobo eReaderですが、全般的な機能については注目記事欄からリンクしたeBook USERのレビューに詳しいのでそちらをご覧いただくとして、しばらく遊んでみての感想をいくつか。

●デザイン 外観・質感ともにいい感じです。サイズは、モニターサイズが同じ6型のソニーReaderにくらべて、縦が少し短く、横が少し長い、いいバランス。Readerより若干重く厚いかもしれませんが、問題にならない差。オールプラスティックですが、キルト風の凹凸が施された少し中高にふくらんだ背中は手に好感触ですし、白モデルはここの色にバリエーションをつけています。四隅にアールをつけた箱体やロゴ、画面のレイアウトとアイコン類など、全体にポップで親しみやすい雰囲気があって、生真面目で武骨さが残るReaderよりも読書端末にはふさわしいデザインだと思います。

●操作 ハードボタンはホームボタンが一つだけで、後はソフトボタンでの操作になりますが、慣れればさほど問題なし。動作はReaderにくらべると全体に遅めですが、まあ、本を読む分には実用範囲でしょう。WiFiでネットアクセスもできますが、技適マークがないので日本では御法度。Readerのブラウザーも敢えて常用するようなものではありませんが、Koboのものは輪をかけてそうだろうことは十分に想像できます。また書籍ファイルのダウンロードもブラウザーからはできないようです。

●日本語表示 eBook USERのレビューにもある通り、日本語epubがたやすく、しかも好きなフォントで表示できます。これがこの端末の一番の魅力で、だからこそカナダ土産にリクエストした次第です。
 日本語フォントの導入はKoboをパソコンとUSBでつないで、ルートフォルダにfontsフォルダを作って、ttfファイルやotfファイルをコピー。日本語epubファイルは同じくルートフォルダにコピーするか、マイクロSDカードで読ませます。日本語epubを表示するともちろんそのままでは文字化けしていますが、フォント選択メニューから導入したフォントを選べば、見事に日本語で読めるようになります。
 幾つかのフォントを試してみましたが、メイリオ・HG明朝・DF平成明朝・MS明朝・IPA明朝は問題なく表示、ただ小塚明朝だけは表示できませんでした。いやーしかし、読書端末で自由にフォントが選べるというのは、ひそかに望んではいたのですが、夢のようですね。しかも、文字サイズ・行間・マージン・ジャスティフィケーションを調整することもできます。フォントに関してはほぼ完璧。もし、これでepub3の縦書き・ルビ打ちに対応したら、一躍、日本語読書端末の最右翼に躍り出ます。
 楽天さんには、既存の文書フォーマットの継承なんてことにこだわらずに、ぜひその方向でのKoboの改良をお願いしたいですね。もちろん、ソニーさんにも、epub3への対応とともに、Koboを見習ってReaderの文字表示のカスタマイズ性の貧弱さを何とかしてほしいもんだと思います。

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新ソニーReader感想

 先日来、新しいソニーReader “PRS-T1” で遊んでいます。もう少し待てば3G対応版も出るようですが、数千円高くなるし、自分の使い方ではそこまでの通信機能は必要ないのでWiFi版にしました。

 これまでは5型のポケットエディションを使っていて、新型は一回り大きい6型のみになったので、最初はかなり大きく感じました。ほぼ新書版と同じという実サイズ以上に大きい印象です。ペーパーバックと機械が与える感覚の違いでしょうか。外出に気軽に伴うにはやはりポケットエディションの方が適していると感じます。でも、持った感じはとても軽いですね。旧型は箱体に金属を使っていましたが、今回はオールプラスティックになって、サイズの割にとても軽く感じます。この軽さで旧型と同じく小形バージョンがあっても面白かったかなと思います。

 操作面で一番の変化は、画面の拡大縮小がピンチイン/アウトでできるようになったことでしょうか。これは特にPDF文書を読む際に非常に便利になるのではないかと思います。そして、旧型の拡大ボタンに代わって「バック」ボタンが設定され、簡単に一つ手前の画面に戻れるようになりました。旧型ではタッチ画面上にバックボタンが表示されていましたが、使いにくいし、表示されない場合もあって、これもいい改良だと思いますが、WiFi対応になってネットブラウザが搭載された以上、必須の機能ではありますね。

 また、ページ送り時の一瞬暗転するような画面の遷移とその遅さは、電子ペーパーの最大の弱点だと思いますが、新型では画面の暗転はあるものの、遷移は少し速くなっています。ただ、新しいKindleはさらに進んでいて、画面の暗転なしで数ページのページ送りができるそうですが、まあ、ページ送り時の挙動なんて慣れてしまえば、さして気にならなくなります。iBooksのページをめくったように見せる効果も、感心するのは最初の間だけです。

 肝心の文字の読みやすさは、旧型と変わらない印象ですが、電子ペーパーのバックの色が室内では少し旧モデルよりくすんで見えます。紙並みにとは言わないものの、もう少し反射性を高められないものでしょうか。表示速度の遅さといい、電子ペーパーはまだまだ発展途上ですね。フォントが選べないのも相変わらずで、この点は今後も期待できそうにありません。文字のサイズ変更は旧型の6段階から8段階に少し細かくなりましたが、ごく小さな文字から巨大な文字までを機械的に8段階に分けただけなので、使い頃のサイズ付近できめ細かく設定できるような、もっと実用的な設定にしてほしいと思います。

 せっかくのWiFiモデルですから、ストアからオンラインで本を買うだけでなく、さらに広いネット利用を試してみました。ちなみにReader のインターネットブラウザーはFlashが表示できない以外は十分な機能を持っているようですが、それだけに電子ペーパーの表示の遅さがめだちますし、単色画面では読みづらく、サイズが近いタブレット並みのスムーズなブラウズを期待するとがっかりします。まあ、何かの時の代替機程度に考えておくのが無難でしょう。しかし、多少モタモタしても直接文書ファイルがダウンロードできるならとアクセスしてみたのが、Google booksと国立国会図書館の近代デジタルライブラリー、どちらも著作権切れの本をPDFで公開しています。

 結果からいうと、どちらもダウンロードはアウト。Google booksはなぜかダウンロードに失敗しますし、近代デジタルライブラリーは、Readerのブラウザーが2つ以上のポップアップ画面を開けない仕様のため、ダウンロードに進むことさえできません。ならばとパソコンでダウンロードしたPDFをDropboxに置いて、ReaderからDropboxにアクセスすることで取り込むことができました。ちなみに当サイトの鏡花PDFもDropboxに置いていますので、問題なくReaderにダウンロードすることができます。

 とまあ、いろいろ書きましたが、業界目線を借りて言えば、ソニーReaderは上陸迫るKindleに今のところ唯一対抗できる期待の国産読書端末です。価格ではアマゾン商法にとても太刀打ちできませんが、機能では上を行っている部分もあります。多種類のフォーマットをサポートしていることもあって、国内書店はReaderとの提携を加速し、その塁に寄ってアマゾンの攻勢に対抗するということになりそうな雲行きです。一方個人的には、epub3に早期に対応してくれそうな唯一の端末がReaderですから、その点でも大いに期待しています。

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読書灯

 寝床での読書に最適なLEDライト、LandportフレキシブルLEDライト。枕灯では隣に寝てる人が迷惑のようなので買ってみました。

 液晶のように自ら発光しない電子ペーパー式端末には光が不可欠。液晶とは逆に、明るい所では見やすい画面も、曇りの日の室内などでは紙の本以上に照明がほしくなることがあります。でも、そのモニター感のない文字表示に慣れると、長く読書するデバイスには最適と感じるようになります。

 で、このライト、小さなボタン電池2個が電源で、ほとんど問題にならない軽さ。明るさはギリギリOKという感じで、端末や本にしおりのように挿し挟んで近接して使うのでないと光量が足りないだろうと思います。100時間持つそうですが、電池が減ってきた時の明るさがちょっと心配。

 ソニーReaderで使うには、ガムテープで貼り付けたりしない限り本体単体では無理で、足の部分を挟み込むためのブックカバーが必要です。そういえば純正のライト付きカバーも売られていますが、ただでさえアクセサリー類は高価なので、カバー+このライトがベターな選択かと思います。青白い光は好きではなく、暖色系のLEDを使ってほしかったところですが、明るさを考えるとこっちの方が有利なんでしょうね。

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