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ソニーReaderのEPUB2を試す

 首を長くして待っているソニーReaderのEPUB3対応ですが、一向に音沙汰なし。もちろんパソコン上で使えるリーダーソフトは既に幾つか出ていますが、いま一つ触ってみる意欲がわきません。もとよりパソコンなんかで読書ができるはずもなく、ベンダーによって実装具合も違うようだし、どうせEPUBで苦労するなら、パソコンソフトなんかじゃなく、読書端末を相手にしたい。

 そんな次第で、とりあえず新しいソニーReader、PRS-T1が実装しているEPUB2.0の具合を試してみることにしました。組版の具合などあまり突っ込んだことを試しても、3.0ではどう変わるか分らないし、またそんな知識もないので、フォントの反映具合と、鏡花電子本ではポイントになる旧字の表示について確かめてみることにします。ネットではソニーReaderのEPUBはゴシックしか表示しないとか、いやCSSで設定すれば大丈夫とか、いやいや新しいリーダーではフォント指定が効かなくなったとか、いろんな話が交錯していますが、ほんとの所はどうなんでしょう。

 素材に使ったデータは、上のような一連の漢字。鏡花本を校正する時に使った新字→旧字のチェックリストです。鏡花本の入力で一番苦労するのはルビと旧字ですが、アドビのinDesignを使うとどちらもずいぶん楽になります。それでも、おとなしい書体が気に入ってHG明朝という古いフォントを使ってしまったこともあって、後から後から見落とした旧字が見つかり、検索で捜しては字形パレットで旧字あるいは異体字に置き換えるという作業を繰り返すことになりました(今もやっています)。これはそのチェックリストの一部を切り出してPDFで出力したものです。

 これをinDesignでEPUBに書き出してソニーReaderに読ませてみたのが次の画像。明朝あり、ゴシックあり、?ありで、変なことになっています。しかし、よく見ると矢印の左側の漢字はみんなちゃんと表示されています。しかもデータ通りの明朝体です。実はこの左側にはHG明朝を使っています。inDesignはEPUBを書き出す際、フォントの埋め込みとCSSでのフォント指定を行なってくれます。この部分はそれがきちんと反映されているようです。

 ところが右側はうわさのゴシック化けです。しかも読めてない部分も。左側と何が違うのか。ここには小塚明朝Pr6Nというのを使っています。ユニコードはもちろん、異体字にも対応しているという強力なフォントです。だからこそ、inDesign上では鏡花の漢字もほぼ完全にカバーできます。つまり、公開している鏡花PDFはHG明朝を中心に部分的に小塚明朝の交じった、フォントのチャンポン状態なのです。全部小塚にすればいいのですが、小塚の平仮名がちょっと気に入らない次第です。

 それはともかく、右と左と何が違うのか。HG明朝はTTF(トゥルータイプフォント)ですが、小塚はOTF(オープンタイプフォント)、とりあえずそれぐらいしか思いつかないので、試しにFontForgeというフリーソフトを使って小塚をTTFに変換してみました。そしてinDesignで小塚TTFを適用し直しEPUBに書き出したのが下の画像。どういうわけだか分りませんが、うまく明朝になりました。ソニーReaderのEPUB2.0は、フォントの埋め込みとCSSの設定で任意のフォントを表示することができる、ただしフォントによってはうまく行かない場合もあるというのを、とりあえず一つめの結果としておきます。

 次に旧字の表示の具合を見てみます。私の大雑把な理解では、EPUBにおける旧字というのは2種類あります。EPUBは文字コードとしてユニコードを採用していますが、そのユニコードの独自番号を持った旧字と持たない旧字です。独自番号を持った旧字は、当然ユニコードに対応したフォントを使えば問題なく表示できます。上の例でいえば、内・清・炭・強の旧字体で、ソニーReaderでも表示できています。一方、独自番号を持たない旧字、いわゆる異体字はそのままでは表示できないので、異体字セレクタという追加番号のようなものを付加して基本となる字と区別するようです。この異体字セレクタに対応したフォントはまだ少ないのですが、ここで使っている小塚明朝はその一つです。

 だからinDesignでは一番上のPDFのように思い通りに旧字を出力することができます。しかし、それをEPUB化してソニーReaderで読むと、一番下の姿・習・急・朝のような結果になり、旧字体は反映されていません。どこに問題があるのか、改善する方法があるのかは、今のところ私にはさっぱり分かりませんが、それよりも次のEPUB3.0へのアップデート後が気にかかります。ソニーリーダーで、というか、読書端末で異体字が選べないとすると、古典作品の本格的な器としての可能性は狭くなってしまいます。

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Adobe Digital Publishing Suite

 アドビが「Adobe Digital Publishing Suite 」の日本での提供を開始。

 よく分らないがInDesignで作った出版物を、電子書籍アプリとして出力し、配信の面倒まで見る、出版社向けのセットのようですね。「Apple iPad用・Android用・BlackBerry PlayBook用」などとなっていてますが、今のところは事実上iPad向けのサービスと考えていいのでしょう。

 といっても、アップルは最近、「単体書籍をアプリとして販売することを許可しない」という方向に行っているようですから、iPad向け電子雑誌の作成・配信サービスということになりそうです。

 そういえば山と渓谷社がすでにこのツールを利用して、「Hütte(ヒュッテ)」という山ガール向け雑誌をappストアで売っていました。無料版もあるのでのぞいてみると、記事別の移動は横フリック、記事内のページ送りは縦フリックという面白いナビゲーション。結構見られるものに仕上がっています。ただ、本文の文字が小さくて今のiPadの解像度では少々読みにくい。このレイアウトならラティナディスプレイ版のiPadが必要でしょう。

 電子書籍を大きくビジュアル系と読み物系に分けるなら、前者はフルカラー液晶で比較的大画面のタブレットで、後者は長時間読書に向いた電子ペーパーの軽くてコンパクトな専用読書端末でという棲み分けが、見えてきたような気がします。

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