bREADERがIVSに対応、異体字が表示可能に
iPod touchに入れているiOSの電子書籍アプリ、bREADERを何気なく開くと、ずいぶん様子が変わっています。このリーダーについては3つ前の投稿で、使っているフォントの文字数が少ないせいか、鏡花のEPUBでは文字化けが頻発すると一蹴してしまったのですが、その文字化けが解消しています。特徴的な一の字点の形から、フォントがKinoppyと同じ游明朝体に変わっていることが分ります。そういえばKinoppyのEPUBエンジンにはこのアプリのものが使われているらしいので、バージョンアップでフォント環境がKinoppyと同じになったとしても不思議ではありません。
そこで、アップデートの情報を確認してみると、案の定、游明朝体へのフォントの変更に加えて、何とこんな驚きの一文が目に飛び込んできました。
ePUBとUnicode テキストファイルで、 サロゲートペアで表現されるU+10000以上のコードポイントを持つユニコード文字と、IVS (Ideographic Variation Sequence) による異字体の表示に対応
特に後半。ほんまかいな、という感じです。これも3つ前の投稿で、現状のEPUB環境では鏡花の異体字を再現することは無理で、将来的にAdobe-Japan1などの異体字コレクションの利用に期待、というようなことを書いたばかりですが、それが早くも実現したということでしょうか。
半信半疑でさっそく試してみます。「IVSによる異字体の表示」のIVSというのは、異体字を表示するためのユニコードの規格で、基本の文字の後に「異体字セレクター」という識別コードをくっつけます。たとえば、「近」の二点しんにょうの異体字を指定するには、HTML上で「近󠄁」という具合にすればいいようです。「e0101」というのが異体字の整理番号で、めざす文字の番号は「SVIVS」というソフトを使えば手軽に知ることができます。
以前作ったお試しEPUBファイル「親子そば三人客」を Sigil でいじって、頭の方の何字かに異体字セレクターを加え、bREADERに読み込んでみます。おお、うまくいきました。近が二点しんにょうになり、灰のがんだれが交差し、鎖のなおがしらが小がしらになり、寒の点々がにすいの形になりました。うれしいので「親子そば」全編に異体字セレクターを加えてしまいます。結果、「又」1字を除いてすべて異体字に変身させることができました。また、アップデート情報に「サロゲートペアのユニコード文字に対応」とあったように、これまでKinoppyでは化けていたので外していた字体も復活させることができました。あっけなく、ほぼ底本の字体を踏襲した鏡花EPUB本ができてしまいました。
ずっと先のことだと思っていた、EPUBでの異体字の利用がこんなに早く実現してしまうとは。しかし調べてみると、ウィキペディアの異体字セレクタの項にはこんなことも書かれています。
Windows 7は標準のテキスト描画処理が異体字セレクタに対応しており、エクスプローラーでのファイル名表示やメモ帳やサードパーティのテキストエディタでのテキスト表示等で異体字セレクタによる字形切り替えが可能である。但し、使用するフォントが異体字セレクタによる字形切り替えに対応している必要があり、日本語版にプレインストールされた標準的なフォントであるメイリオは非対応であるため、初期設定では異体字セレクタで字形が切り替わらない。
ユニコードIVSはもう身近に実現されていたのです。そして、フォント環境が多くの場合固定されている電子書籍リーダーでは、さまざまなフォント環境を考慮しなければならないパソコンとは違って、その気になればIVSはすぐに実現できるものだったということがいえそうです。電子書籍リーダーの多くは、専用フォントとして異体字コレクションを内包した最新のものを使っていることが多く、仕組みさえ整えれば豊富な異体字がすぐに表示できるということでしょう。
といっても、現在IVSが使えるリーダーはbREADERただ一つ。試しに、Kinoppyに読み込ませてみると、異体字セレクターの部分が化けてしまいます。ソニーReaderでは文字化けはなく、異体字セレクターは無視されてこれまで通りの基本字で表示されています。今までは主に青空文庫や自炊本のリーダーとして知られていたこのアプリは、IVS対応によって一気にEPUBリーダーの最先端に躍り出たといえそうです。
bREADERにはこの他にも豊富な機能があり、文字サイズはもちろん、行間を調整できたり、まだ試していませんがiTunes経由で好きなフォントを入れて表示することも可能なようです。扉画像の断ち切りだってできています。動作もクラウドと頻繁にやり取りするKinoppyに比べてスムーズで、Kinoppyに代わってiOSの標準リーダーにしてもいいかと思いますが、残念なことにiPadの画面サイズには対応していません。いかんせんスマートフォンの小さな画面ではメインの読書ツールにはなりえません。電子ペーパーの専用端末にbREADERの異体字機能が載れば素晴らしいと思うのですが、ソニーは次の新型でようやくEPUB3に本格対応ということになりそうだし、koboはこれからだし、まだまだそこまで手が回らないのが実情でしょう。せめてbREADERにiPad版があって、噂のiPad miniに乗せることができれば、機能・サイズともに(液晶はつらいですが)ベストな読書デバイスになりそうな気がします。
→追記 気がつくとbREADERの行頭の起し括弧の扱いがバラバラになっています。天付きの半角取りがあるかと思えば、天付きの全角取り、個人的には望ましい2分あきの全角取りもあります。それが同じページ内にもまざって出てきます。同じエンジンを使っているというKinoppyは2分あきの全角取りで固定されているのに、どうしたことでしょう。バージョンは最新の1.4.1で、最近アップデートがあったはずですが、この現象はアップデート後のことか、以前からあったのかは不注意にして不明です。どっちにしてもこのままではまずいでしょう。(2012.8.7)
→9月5日のアップデートで修正されました。
親子そば三人客(異体字セレクター使用版)
内心おそれていたコメントがきました。
春から自己流で作り始めたので、いろいろ不手際がありそうです。
具体的に指摘いただければ嬉しいのですが。
IVSはいいとして、このファイル正しいですか?
どうもオーサリングがおかしい気がする。
突出してますね
すごいね。これは。