「航薇日記」詳細
這回の一遊は奇々怪々にして、
日ごとの変幻、自らも驚くばかりなり…。
雌伏時代の成島柳北が残した融通無碍な旅の記録。
[航薇日記]
『柳北奇文』に続く成島柳北の電子書籍2冊目は、明治2年32歳の年に書かれた旅日記『航薇日記』です。「航薇」は「航備」であり、備中、現在の岡山を旅の目的地として、晩秋初冬の一カ月半、柳北は東京を離れます。前年、江戸開城とともに致仕し家督を養子に譲った柳北にとって、それは気ままな世捨て人の旅であり、「花月新誌」に掲載した際の前書きにも「自から放縦に流れ人に語る可からざるほどの狂痴に類せし事ども多ければ」とあるように、行く先々で冶遊を楽しむ自らの姿を包み隠さず記しています。とはいえ、その記述は単に行きずりの遊蕩と片づけるには大変細やかで、各地の美妓との交渉には柳北の人間的な誠実さといったものも感じられます。
またこの旅は、若くして家代々の将軍侍講職を継ぎ、幕末には開明派幕閣として重責をになった柳北にとって、初めて関東を遠く離れ、これまで詩書画で知るのみだった天下の山水を目の当たりにする行でもありました。なかでも小豆島の寒霞渓に登った際の「奇絶快絶」の実感は彼にとって空前のもので、それを伝統的な漢文脈のなかで表現しようとする柳北の筆は自ずと昂揚し、全編の白眉ともなっています。
このように、処々の花柳境での遊びから、各地の風俗の観察、風景への没入、また各階層の人々との出会いなど、柳北の筆は、その人の関心の広範さ、情熱の豊富さを感じさせつつ、一世紀半前の旅をまるごと描き出して、その舞台である当時の日本の実相をも伝えるが如くです。ここに足りないのは、世を捨ててなお柳北が心を砕き続けていたに違いない天下の形勢といったことでしょうが、それをわずかな詠嘆の表現の内に伏せた柳北の姿勢は、3年後の欧米旅行の際にも持続されつつ、知見と洞察は蓄積されて、その後機会を得るや鋭い文明開化批評として一気に噴出します。この雌伏時代の旅日記は、明治最初のすぐれたジャーナリスト成島柳北を支える人間的な容量と感覚の鋭敏を証するものとして、彼を慕う人にとって好個の読み物になるのではないでしょうか。
電子化に当たっては、漢字を新字に改め、難解な語句には注を施し、漢詩には読み下し文を添えるなど、味読を容易にするべく努めました。
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