KindleアプリでEPUB3→mobiを試す

 ついにKindle上陸。端末の発売は少し先になるようですが、ストアは昨日からオープンしていますし、スマートデバイス用のKindleアプリもアップデートされ、縦書き・ルビ打ちなどの日本語表示に対応したようです。ストアの品揃えを見ると、天下のアマゾンさんも苦戦しているようで、文学関係では既存の日本の電子書店が共通して持っているラインアップがすっぽり抜け落ちていたりします。XMDFや.bookなどの電子本を横滑りさせる方策を採っていないということでしょうか。けど価格的には、既存の電子書店より少しずつ安く設定されている感じで、価格決定権をアマゾンが握っているケースの多いことが窺えます。キワモノ本などは honto の半分以下の値付けになっていたりします。書籍のデータにはKindle版と紙の本の各エディションを比較した一覧まで作られていて、今後価格をテコに大攻勢をかける意欲満々といった雰囲気が早くも漂っています。

 そんな話はさて置き、気になるのは日本にやってくる電子ペーパー端末Kindle Paperwhiteのこと。EPUB3が実現した日本文表示をちゃんとフォローできているのか、文字組みは大丈夫かなど、興味津々。現在予約受け付け中で、11月中旬発売とのことですが、それまで待たなくても、アップデートされたスマートデバイスのKindleアプリを試すことで、表示の具合はかなりの程度推測できそうです。アマゾンからはKindle Previewerというソフトが既にリリースされていて、EPUBなどをKindleフォーマットに変換したらどんな表示になるかを確認でき、また変換したmobiファイルを書き出すこともできます。これまでKindle Previewerで確認した“EPUB3変換mobiファイル”の表示はとても満足できるものではなく、それを理由に上陸を危惧する記事もあった程なのですが、今回Kindle Previewerもアップデートされ、日本文表示が本番仕様に改善されていることが期待できます。

 そこで、自作のEPUB3ファイルをKindle Previewerにかけ、パソコンで表示を確認するとともにmobiファイルを書き出し、それをNexus7とiPad上のKindleアプリにアップロードしてみました。EPUB3からmobiへの変換はソフトが勝手にやってくれ、パソコン上では問題なく縦書き・ルビ打ち表示されました。それをスマートデバイスのKindleアプリにメール添付というレトロな方法で読ませると(Dropboxから読ませることができましたね)、iPadではどういうわけか横書き・ゴシックでしか表示されず残念な状態ですが、AndroidのNexus7では“EPUB3変換mobiファイル”は意図通りの表示を維持しています。これを見るとEPUB3は簡単にアマゾン形式に移行できるわけで、Kindle Paperwhiteでも同じ結果が期待できそうです。

 ただ、一つだけ問題を発見。右上の設定ボタン→移動で現れる目次が選択できません。調べてみると、Kindle形式ではEPUB2の toc.ncx やEPUB3のナビゲーション文書は読んでくれず、文書内目次のhtmlファイルを、移動からジャンプする目次ページとして指定する必要があるようです。指定は、パッケージ文書の末尾のguide要素に次のような1行を加えます。
<reference href=”Text/mokuji.xhtml” title=”目次” type=”toc” />
 EPUBリーダーでも目次の扱いがまちまちなのに、そこにKindleも加わって何ともややこしいことになってきましたが、これ以外はノータッチでEPUB3で作った本をKindleに移植できそうです。

 次に、少し突っ込んでKindleアプリの文字組み(=Kindle Paperwhiteの文字組み?)を見てみます。 右はそのキャプチャーですが、フォントはタイプバンク明朝というのを採用しているよう。このフォント、ご覧のように少々癖のある姿で、どんな文章にも向くといったものではないように思います。個人的には古典や鏡花をこのフォントで読むのは願い下げですね。それはともかく文字組みで気づいた点を幾つか。

 まず、行頭起こし括弧の天付き半角取り、これはソニーReaderと同じで個人的には嬉しくない姿です。ただ、連続約物が kobo のように間延びしないのはやはりReaderと同様のメリット。また、ルビは中付きで、1文字に3字以上のルビだと、親文字の前後の字間を広げる設定になっているようですが、これもReaderと同じ。このため総ルビの鏡花では字間が所々で開いて、個性的なフォントの姿とともに紙面の印象はkoboはもちろんReaderと比べてもあまりきれいとはいえません。文中のリンクには、装飾無しの指定を無視して、色文字と傍線という二重の装飾。ちなみにリンクはちゃんと効きますし、戻るボタンも比較的タップし易い位置にあります。禁則処理については特に問題はなさそう。ReaderやKinoppyに見られるくの字点の泣き別れもありません。それから句読点のぶら下がりを普通にやっていて、これは他のリーダーにない特色です。他に文字画像などのインラインの画像が少し右寄りに表示されるのが気になりますが、これはkoboでも見られます。

 こうして見ていくと、文字組みに関しては先行の国内リーダーと遜色なさそう。フォントのせいで紙面の印象が他の2機に劣るのは残念ですが、もはやこのままのスタイルでPaperwhiteになだれ込むことになるのでしょうね。もちろん電子書籍リーダーの価値は文字づらだけで決まるものではなく、ハード・ソフト的な使い勝手や流通システムとの連携といったことも重要で、特に後者が圧倒的にすぐれているのがアマゾン。加えて、膨大な利用者数を背景にした自主出版をサポートするシステム「Kindle ダイレクト・パブリッシング」もアマゾンの独壇場で、それが日本でどれだけ広がるのか、またEPUBでの本作りにどんな影響があるのか、今後目が離せないところです。

追記:iPadのKindleアプリで横書き・ゴシックになってしまう件。iPod touchでも同様で、iOS全般の現象みたいですね。けど、Kindleストアで購入した本はiOSでもちゃんと明朝・縦書きになりますから、アマゾンの所謂パーソナル・ドキュメントの扱いが、iOSのKindleアプリではまだ不完全なようです。
 ついでにiOSでの表示フォントは、OSデフォルトのヒラギノ明朝になっていて、Kindleデフォルトのタイプバンク明朝とはずいぶん印象が変わります。ところで、そのタイプバンク明朝ですが、見慣れてくると一種丸文字的(あるいはへた文字的w)なイメージを加味した風の親しみやすい雰囲気があり、古い文章でも随筆系ではそれなりに合いそう。たとえば、無料本になっている泣菫の『独楽園』なんかではほっこりしていい感じになります。けど、あらゆるタイプの文章を表示する電書端末にふさわしいかというと、それは大いに疑問ですね。

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