「航薇日記」の漢詩再現法
先日アップした「航薇日記」には漢詩がけっこうな数含まれていて、その扱いがひとつの悩み所になりました。
底本では柳北が旅中に作った漢詩は、一字下げの別段落で、句ごとに改行せず句点で区切り、日本独特の漢詩表記法である訓点・送り仮名を振って記されています。また、他の人が過去に作った漢詩などを引用する場合は、本文中に改段せずに流し、やはり句点で区切りつつ訓点・送り仮名を振って記されています。前者については、よくある古典出版での漢詩の記載法、句ごとに改行し、白文の(漢字だけの)漢詩を記し、その下に読み下し文を付けるという形をとることにしましたが、後者の引用詩についてはそれでは大げさなので、鍵括弧でくくって底本通りに文中に流し、訓点・送り仮名を施すことにしました。そこで問題になるのが、訓点・送り仮名をEPUBでどう再現するか。以前から気になっていたことですが、ようやく実作で直面することになりました。
EPUB日本語基準研究グループの「EPUB3日本語ベーシック基準」をのぞいてみると、この点に触れて、「(CSSの上付き・下付きを利用して)漢文も、返り点または送り仮名のいずれか一方であれば、これを使って表現可能。しかし、現時点では、返り点と送り仮名の同時指定はできない。」と書かれています。上付き・下付き(縦書きでは右付き・左付きになる)が利用できるのは嬉しいですが、確かに訓点と送り仮名が同じマスに左右に並ぶケースは多いので、どちらか一方しかというのではまさに片手落ちです。
で、思いついたのが「ルビ」を利用してはどうかということ。ルビは右付きですから、送り仮名の代用として使えるかもしれません。訓点はspanタグでくくって、CSSで下付き指定 vertical-align:sub をし、送り仮名はルビで送り仮名を振る漢字の右に付けます。そのままでは漢字の真横に付いてしまいますので、空白を一つ頭に入れてみました。こんな具合。
「<ruby>年<rt> ニ</rt></ruby>採<span class=”sub”>㆓</span>江南牡蠣<ruby>兒<rt> ヲ</rt></ruby><span class=”sub”>㆒</span>。春潮淺處<ruby>養<rt> フ</rt></ruby><span class=”sub”>㆓</span>香<ruby>肌<rt> ヲ</rt></ruby><span class=”sub”>㆒</span>。廣洲<ruby>已<rt> ニ</rt></ruby><ruby>是<rt> レ</rt></ruby><ruby>避<rt> ク</rt></ruby><span class=”sub”>㆓</span>三<ruby>舎<rt> ヲ</rt></ruby><span class=”sub”>㆒</span>。上國未<span class=”sub”>㆑</span><ruby>知<rt> ラ</rt></ruby><span class=”sub”>㆓</span>風<ruby>味<rt> ノ</rt></ruby><ruby>奇<rt> ヲ</rt></ruby><span class=”sub”>㆒</span>。」
恐る恐るEPUBに書き出して表示させてみると、おお、意外にうまくいっています。本来は訓点と送り仮名は同じマスにあるべきで、この方法では送り仮名は少し上めになってしまいますが、見たところ違和感はあまりありません。文中の漢詩では分りづらいので、別にサンプルを作って各端末に表示させてみたのが下の画像。上からソニーReader・kobo・Kindleです。上二つはそのままでオーケー。訓点とルビの左右のバランスが一番いいのはReaderで、koboは下付きにした訓点の位置が少し内寄り、というかフォントの左端に揃っています。左端をはみ出すReaderの下付きがイレギュラーということでしょうか。おっと、Kindleはどうしたわけか訓点がすべて横倒しです。訓点はユニコードの漢文用記号3190~319Fを使っていますが、Kindleではそれが半角英数と同じに解釈されて正立しない、ということでしょうか。仕方なくkindle用のEPUBを別途用意して、訓点に縦中横を適用するとうまく正立しました。訓点の位置はkoboと同じく文字の左端揃いになります。
ちなみに訓点と送り仮名を下付き・上付きで指定した場合の仕上がりはこんな具合。どちらが上に来るかは指定の順番次第ですが、やはり少し苦しいですね。訓点と送り仮名で二マス分を取ることになり、かなり間延びします。一マスに上付き・下付きが同居できるようになるまでは(なるのか?)、訓点は下付きで、送り仮名はルビを流用して、というのが次善の策ではないかと思います。