楽天Koboライティングライフを試す
ずいぶん以前から始まる始まると言われていた日本版Koboの自主出版サービスが、年末にようやくスタートしましたので(まだベータ版とか)、さっそく試してみました。
無料出版もオーケーだということなので、ここはやはりルビだらけの鏡花の「歌行燈」を選択。楽天市場のアカウントでログインすれば、すぐに出版手続きに移れます。必要な項目は、1.作品の基本情報、2.パブリックドメインか否か(PDならロイヤリティは20%、オリジナルなら価格によって70%か45%)、3.内容紹介、4.書籍ファイルのアップロード(受け付けるのはEPUB3ファイルのみということで、ここがAmazonに比べて敷居が高いですね)、5.DRM の要不要(ここはもちろん中身を調べたいのでノー)、6.価格、以上で出版となります。Amazonに比べるとかなり簡単な印象です。設定している項目にさほど違いはないのでしょうが、あちらは文言が一貫して分かりづらかった印象があります。
これで審査を経て出版されるのを待つばかり。「審査には通常24-72時間かかります」とありますので、しばらくしてのぞいてみると、まだ「出版中」のまま。きっと審査が混み合っているのだろうと、一週間ほどしてのぞいてみると、「閲覧できないデータのため」出版できませんというコメントが。驚いて「ちゃんとKoboやその他の端末・アプリで読めているデータですよ」というメールを送ると、すぐに「すいません、読めました。出版まで少々お待ちを」という趣旨のメールが返ってきました。安堵してしばらくしてのぞくと、確かに本は販売中になっていますが、試しに買い物かごに入れようとするとエラーが出てダメ。また問い合わせすると、即日「担当者が調べています」という返事があって、そこにはまた「なお、楽天Koboライティングライフにてご自身で出版していただいた書籍をご購入いただくことは出来ない仕様となっておりますことをご了承ください。」とも。なるほど、著者がベストセラーを自作自演できない仕掛けがあるということのよう。ただ、原因はそれとは違ったようで、翌日には購入できる状態になった旨のメールが届きました。
ことさらに書き立てるほどのこともない小さなトラブル二つですが、スタートアップのトラブルについては楽天さんにはKobo touch発売時の前科があり、少々心配になります。ただ、問い合わせメールへの対応は迅速丁寧で、サポート体制については好印象を持ちました。
さて、興味津々なのは、出版されたEPUBは元のファイルとどう変わっているか。自作のEPUB3ファイルをKobo touchを始めとする専用端末に読ませると(もちろんファイル名に.kepubを加えて)、しおりやマーカーが残せず、検索やリンクジャンプからの戻るが正しく働かないのは周知の現象です。自作本をライティングライフで販売するとなると、さすがにそのままではまずいので、何らかの加工が施されているはずです。で、楽天の別アカウントでダウンロードした今回のライティングライフ版「歌行燈」のソースを、ファイル管理が比較的容易なアンドロイド端末から見つけ出して(sdcard/Android/data/jp.co.rakuten.kobo/filesepubs/に無圧縮の状態でありました)、中身を見てみると、本文のxhtmlファイルは元の400KBちょっとから3MBにふくれあがっています。恐る恐るファイルを開いてあぜん。鏡花の文章は細切れになり、kobo idを振るためのspanタグであふれかえっています、その数実に31,909タグ。よく見ると、ルビにもすべてidが振られています。機械的にタグをつけているからこういうことになるのでしょうが、これはもはや書物のソースとはいい難いビジュアルです。いやはや。
しかし、おかげでKobo touchでもしおりは完璧です。これまで自作EPUBでは、Kobo touchでもある程度しおりが機能するようにと、段落やひと固まりの文章ごとにkobo idを振っていて、手作業ではそうしたおおまかな対応がせいぜい。逆にいうと、ライティングライフを通過させることで、自作EPUBは完璧にKoboしおり対応版に変身するわけですが、さすがにここまでソースを肥大させてしまうのはためらわれます。スマートデバイス用Koboアプリのように、.kepubやkobo idのない素のEPUBで十全に機能する専用端末の登場を楽天Koboには期待したいと思います。ライティングライフとは関係のない結論になってしまいましたけれど。